概要
取り込みボタンの処理の例外でアプリが終了するのを避けようとして、コマンドに FlowExceptionsToTaskScheduler を付けると、今度は失敗しても何も言わなくなる。
CommunityToolkit.Mvvm(以下 Toolkit)の AsyncRelayCommand では、この設定 1 つで例外の届き先が入れ替わる。
既定では、[RelayCommand] を付けた async Task のメソッドの例外は Application.DispatcherUnhandledException に届く。
FlowExceptionsToTaskScheduler を付けると、1 回目の実行の後は、公式の解説が届き先として挙げる TaskScheduler.UnobservedTaskException にも、GC を呼んだ後でさえ届かなかった。
画面には何も出ず、失敗の後のボタンは押せる状態である。
例外の行き先を決めているのは、AsyncRelayCommand.Execute が呼ぶ 1 つの async void のメソッドである。
その経路を Toolkit のソースで追い、書き方ごとの届き先を実測で比べる。
比較には、Prism 8 の DelegateCommand に async のラムダを渡す書き方も加え、最後に例外をコマンドの中で受ける実装を示す。
前提・対象環境
- フレームワーク: .NET 6 以降 / WPF
- ライブラリ: CommunityToolkit.Mvvm 8.4.0、Prism.Core 8.1.97(Prism は MIT ライセンスで提供された最後の版を使った)
- 検証環境: .NET 10(10.0.13)/ Windows 11
- アーキテクチャ: MVVM(ビューはバインドだけで動かし、コードビハインドを持たない)
計測では、ツールのプロセスを落とさないために DispatcherUnhandledException のハンドラーで e.Handled = true にしている。
Handled にしなかったときにアプリが終了することは、本記事では測っていない。
.NET Framework と、Prism 9 以降にある AsyncDelegateCommand も測っていない。
現象
ファイルを取り込むコマンドを、Toolkit のソース生成で書く。
取り込みの失敗を再現するため、ReadImportFile は常に例外を投げる。
using CommunityToolkit.Mvvm.ComponentModel;
using CommunityToolkit.Mvvm.Input;
public sealed partial class ImportViewModel : ObservableObject
{
[ObservableProperty]
private string _errorMessage = "";
[RelayCommand]
private async Task ImportAsync()
{
await Task.Run(ReadImportFile);
}
private static void ReadImportFile() =>
throw new InvalidOperationException("The import file was not found.");
}
[RelayCommand] は、Task を返すメソッドから AsyncRelayCommand を生成する。
コマンドの名前は、メソッド名から Async を除いて Command を付けた ImportCommand になる(RelayCommand 属性の解説)。
ビューは、ボタンとエラーのメッセージを出す TextBlock だけである。
<StackPanel Margin="8" Width="360">
<Button Content="Import" Command="{Binding ImportCommand}"
HorizontalAlignment="Left" Padding="14,2" />
<TextBlock Margin="0,6,0,0" Foreground="#D13438" Text="{Binding ErrorMessage}" />
</StackPanel>
ボタンを押すと、ReadImportFile の例外が DispatcherUnhandledException に届く。
DispatcherUnhandledException のリファレンスによれば、WPF は既定で未処理の例外をダイアログで知らせてアプリを終了し、ハンドラーで Handled を true にすると処理を続ける。
Handled にしないとアプリが終了する例は、WPF の DispatcherUnhandledException で捕まらない例外 — 別スレッド・Task・async void の届き先の表の「Click ハンドラ(Handled を立てない)」の行で実測している。
RelayCommand 属性の解説は、この既定の動作を変える FlowExceptionsToTaskScheduler を紹介している。
付けると例外でアプリは落ちなくなり、例外は ExecutionTask から読めるうえ TaskScheduler.UnobservedTaskException にも流れる、という説明である。
[RelayCommand(FlowExceptionsToTaskScheduler = true)]
private async Task ImportAsync()
{
await Task.Run(ReadImportFile);
}
この書き方では、ボタンを押しても DispatcherUnhandledException は呼ばれない。
ところが UnobservedTaskException も呼ばれず、画面にも何も出ず、失敗の後のボタンは押せる状態である。
内部で何が起きているか
Execute は結果の Task を async void で待つ
ボタンはコマンドの ICommand.Execute を呼ぶ。
Toolkit 8.4.0 の AsyncRelayCommand のソースでは、Execute は ExecuteAsync を呼んで Task を受け取り、FlowExceptionsToTaskScheduler が無ければ、それを AwaitAndThrowIfFailed に渡す。
public void Execute(object? parameter)
{
Task executionTask = ExecuteAsync(parameter);
if ((this.options & AsyncRelayCommandOptions.FlowExceptionsToTaskScheduler) == 0)
{
AwaitAndThrowIfFailed(executionTask);
}
}
internal static async void AwaitAndThrowIfFailed(Task executionTask)
{
await executionTask;
}
上はソースからコメントを除いて抜き出したものである。
AwaitAndThrowIfFailed は async void で、ソースのコメントには、同期のコマンドと同じく例外を元の同期コンテキストで投げ直すために、あえて async void にしていると書かれている。
async void のメソッドから漏れた例外は、メソッドを開始した時点の SynchronizationContext に投げ直される。
ボタンから呼ばれた Execute は UI スレッドで動くので、例外は Dispatcher に投げ直され、DispatcherUnhandledException に届く(前述の記事の「async void の例外」の節)。
FlowExceptionsToTaskScheduler を付けると、この AwaitAndThrowIfFailed が呼ばれない。
ExecutionTask の完了を通知するために Task を待つ内部の処理(MonitorTask)は残るが、結果を確かめない待ち方(GetAwaitableWithoutEndValidation)なので、例外は受け取られない。
例外は失敗した Task の中に残り、その Task は ExecutionTask プロパティに入れられたままである。
Prism 8 には AsyncDelegateCommand のような非同期専用のコマンドの型が無く、DelegateCommand は Action を受け取る。
ここに async のラムダを渡すと、ラムダは async void になり、Toolkit の既定と同じ経路で例外が Dispatcher に投げ直される。
ImportCommand = new DelegateCommand(async () => await Task.Run(ReadImportFile));
async void のラムダは Task を返さないので、DelegateCommand の側に失敗が残ることも無い。
書き方ごとの届き先
書き方ごとに、ボタンを 1 回押した後の届き先と、2 回目を押して GC を呼んだ後の UnobservedTaskException を測った。
| コマンドの書き方 | DispatcherUnhandledException(回数) | UnobservedTaskException(GC を明示的に呼ばずに 1 秒) | UnobservedTaskException(GC の後) | UnobservedTaskException(2 回目を押して GC の後) | ImportCommand.ExecutionTask.Status | 画面のメッセージ | 失敗の後のボタンの IsEnabled |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Toolkit、async Task に [RelayCommand](既定) | 1 | 0 | 0 | 0 | Faulted | (なし) | True |
| Toolkit、[RelayCommand(FlowExceptionsToTaskScheduler = true)] | 0 | 0 | 0 | 1 | Faulted | (なし) | True |
| Prism、DelegateCommand に async のラムダ | 1 | 0 | 0 | 0 | -(プロパティが無い) | (なし) | True |
| Toolkit の既定、ImportAsync の中で await を try / catch | 0 | 0 | 0 | 0 | RanToCompletion | The import file was not found. | True |
| Toolkit の既定、別のコマンドから ImportCommand.ExecuteAsync を await して try / catch | 0 | 0 | 0 | 0 | Faulted | The import file was not found. | True |
.NET 10.0.13 / Windows 11、CommunityToolkit.Mvvm 8.4.0 / Prism.Core 8.1.97 で、「現象」の節のビュー(5 行目だけはボタンを呼び出し側のコマンドに結び付ける)を表示し、ボタンを UI オートメーションの Invoke で押した(Invoke は ButtonBase.OnClick を呼び、OnClick が Click イベントの後にコマンドを実行する)。取り込みはどの書き方でも Task.Run の中で InvalidOperationException を投げる。押してから GC を呼ばずに 1 秒待ち、「GC の後」と「2 回目を押して GC の後」を除く列を読んだ。続けて GC.Collect()・GC.WaitForPendingFinalizers()・GC.Collect() を呼んで「GC の後」を読み、最後にもう一度押して 1 秒待ち、同じく GC を呼んで「2 回目を押して GC の後」を読んだ。UnobservedTaskException の回数は 1 回目からの累計で、それ以外の列は 1 回目を押した後の値である。ビューモデルはウィンドウに表示したまま GC を呼んでいる。DispatcherUnhandledException のハンドラーは e.Handled = true に、UnobservedTaskException のハンドラーは e.SetObserved() にしている。計測の前には、前の書き方の Task が数に入らないよう、UnobservedTaskException が出なくなるまで GC を繰り返した。各書き方 1 回の記録で、暖機の実行や複数回の結果の集計はしていない。
既定の 1 行目と Prism の 3 行目では、DispatcherUnhandledException が 1 回呼ばれた。
AwaitAndThrowIfFailed やラムダの await が例外を受け取っているので、UnobservedTaskException は GC の後も呼ばれない。
FlowExceptionsToTaskScheduler の 2 行目では、1 回目を押した後に GC を呼んでも、UnobservedTaskException が呼ばれなかった。
UnobservedTaskException は、例外が観測されないまま失敗した Task がファイナライズされるときに呼ばれる。
1 回目の Task はコマンドの ExecutionTask が参照しているので、回収されない。
2 回目を押すと ExecutionTask が 2 回目の Task に差し替わり、その後の GC で初めて 1 回呼ばれた。
計測では 1 回目の ExecutionTask を弱参照で持ち、Toolkit の 4 つの行のどれでも、1 回目の GC の後には残っていて、2 回目を押した後の GC で回収されたことを確かめている。
2 回目の Task は ExecutionTask に入ったままなので、ソースの参照関係のとおり、2 回目の後の GC でも回収されない(こちらは弱参照で確かめていない)。
経路から導ける帰結
失敗は ExecutionTask にだけ残る
FlowExceptionsToTaskScheduler を付けた書き方では、最後の失敗を知る手がかりは ExecutionTask だけである。
ExecutionTask は、実行が終わると変更の通知を出し直す(AsyncRelayCommand の解説)。
そのため、ビューから ExecutionTask.Status にバインドすれば、失敗したことを画面に出せる。
「現象」の節のビューのボタンの下に、次の 1 行を足す。
<TextBlock Margin="0,6,0,0"
Text="{Binding ImportCommand.ExecutionTask.Status,
StringFormat='ExecutionTask: {0}',
FallbackValue='ExecutionTask: (not run)'}" />
まだ実行していない間は ExecutionTask が null でパスを解決できないので、FallbackValue の文字列がそのまま出る。
計測では、押す前の行が ExecutionTask: (not run) で、押した後に Faulted や RanToCompletion に変わることを確かめた。
この表示は、後の「実装例」の節の図で使う。
ExecuteAsync を await すれば、例外は呼び出し側に届く
例外を Dispatcher に投げ直すのは、ICommand.Execute の中の AwaitAndThrowIfFailed である。
IAsyncRelayCommand.ExecuteAsync は、実行の Task をそのまま返す。
別のコマンドから ExecuteAsync を await すれば、例外は呼び出し側の try / catch で受けられる。
[RelayCommand]
private async Task ImportAndReportAsync()
{
ErrorMessage = "";
try
{
await ImportCommand.ExecuteAsync(null);
}
catch (InvalidOperationException ex)
{
ErrorMessage = ex.Message;
}
}
表の 5 行目がこの書き方で、DispatcherUnhandledException は呼ばれず、メッセージが画面に出た。
ただし ImportCommand.ExecutionTask.Status は Faulted のままである。
呼び出し側で受けたかどうかは ExecutionTask には反映されないので、ExecutionTask.Status を画面に出している場合は、失敗の表示が残る。
失敗の後のボタンは押せる
表の最後の列のとおり、どの書き方でも、例外の後のボタンは押せる状態だった。
FlowExceptionsToTaskScheduler の書き方で画面に何も出さなければ、利用者には押しても何も起きなかったように見える。
実装例
取り込みの失敗のように、起きることが分かっている例外は、コマンドのメソッドの中で受けてビューモデルの状態にする。
FlowExceptionsToTaskScheduler は付けず、既定のまま使う。
using CommunityToolkit.Mvvm.ComponentModel;
using CommunityToolkit.Mvvm.Input;
public sealed partial class ImportViewModel : ObservableObject
{
[ObservableProperty]
private string _errorMessage = "";
[RelayCommand]
private async Task ImportAsync()
{
ErrorMessage = "";
try
{
await Task.Run(ReadImportFile);
}
catch (InvalidOperationException ex)
{
ErrorMessage = ex.Message;
}
}
private static void ReadImportFile() =>
throw new InvalidOperationException("The import file was not found.");
}
ビューは「現象」の節の XAML をそのまま使う。
表の 4 行目のとおり、DispatcherUnhandledException も UnobservedTaskException も呼ばれず、メッセージが画面に出た。
メソッドは正常に終わるので、ExecutionTask.Status は RanToCompletion になる。
3 つの書き方を、「経路から導ける帰結」の節の ExecutionTask.Status の行を足したビューで並べると、次のとおりである。
ExecutionTask.Status の行を足したビュー 3 つに、それぞれ別のビューモデルを渡し、Import ボタンを 1 回ずつ押して 1 秒待った後に 1 回だけ撮った(暖機の実行や、複数回の結果の集計はしていない)。上は「現象」の節の既定の書き方(DispatcherUnhandledException は計測のハンドラーで Handled にした)、中は FlowExceptionsToTaskScheduler を付けた書き方、下は本節のコードである。各組の見出しは撮影のために付けたもので、ビューの XAML には含まれない。上の 2 組の画面は同じに見える。
既定の書き方では例外が DispatcherUnhandledException に届いているが、そのハンドラーが記録や表示をしなければ、画面からは区別できない。
catch で受けるのは、取り込みの失敗として想定した例外の型だけにする。
catch しなかった例外はメソッドから漏れ、ソースの経路のとおり、表の 1 行目と同じく AwaitAndThrowIfFailed から DispatcherUnhandledException に届くので、アプリ全体のハンドラーで記録できる(別の型の例外を投げる場合は測っていない)。
catch (Exception) ですべて受けると、取り込みと関係のない不具合まで画面のメッセージに紛れる。
注意点
FlowExceptionsToTaskSchedulerを付けたら、ExecutionTaskを誰かが見る。
RelayCommand 属性の解説は、この設定では想定していない例外も自動では投げ直されなくなるので、場面ごとに扱いを決めるよう注意している。
実測では、UnobservedTaskExceptionは次に実行してExecutionTaskが差し替わり、GC が走るまで呼ばれなかった。
一度しか実行しないコマンドでは、コマンドを持つビューモデルごと回収されるまでTaskは回収されないと考えられるが、本記事では測っていない。
コマンドを持つビューモデルが生きている間は、最後の失敗が次の実行と GC までUnobservedTaskExceptionに届かないので、この設定の例外を記録する手段として当てにできない。UnobservedTaskExceptionが呼ばれる時期は GC 次第である。
計測では GC を明示的に呼んだ。
実際のアプリで GC がいつ走るかはメモリの状況で決まる(前述の記事の「Task と Timer の内部で止まる例外」の節)。- Prism 8 の
DelegateCommandにasyncのラムダを渡すと、async voidになる。
例外は Toolkit の既定と同じくDispatcherUnhandledExceptionに届く(表の 3 行目)。
DelegateCommandにはExecutionTaskに当たるものが無いので、失敗を後から読む手段も無い。
例外を受けるには、Toolkit の実装例と同じく、ラムダの中でawaitをtry/catchで囲むことになる。
Prism でのこの書き方と、Prism 9 以降のAsyncDelegateCommandは測っていない。 - 計測は、取り込みの例外が
Task.Runの中で投げられる場合だけである。
awaitより前に同期的に投げる場合や、CancellationTokenを受け取るメソッドで取り消した場合は測っていない。
まとめ
AsyncRelayCommand の Execute は、実行の Task を async void のメソッドで待ち、失敗すれば例外を Execute を呼んだ時点の同期コンテキストに投げ直す。
ボタンから実行した場合は UI スレッドの Dispatcher に投げ直されるので、既定では、コマンドの例外は DispatcherUnhandledException に届く。
Prism 8 の DelegateCommand に async のラムダを渡した場合も、ラムダが async void になるので同じ経路をたどった。
FlowExceptionsToTaskScheduler を付けると投げ直しが無くなり、失敗した Task は ExecutionTask に残る。
ExecutionTask が参照している間は回収されないので、ビューモデルを表示したまま測った計測では、UnobservedTaskException は次に実行した後の GC まで呼ばれなかった。
コマンドを持つビューモデルごと回収できる状態になれば、次の実行が無くても GC の後に呼ばれうるが、本記事では測っていない。
ExecutionTask を画面やコードで見ないのであれば、コマンドが使われ続けている間、例外は次に実行して GC が走るまでどこにも届かない。
起きることが分かっている例外は、既定のままコマンドのメソッドの中で try / catch し、ビューモデルの状態にして画面に出す。
FlowExceptionsToTaskScheduler は、ExecutionTask にバインドして結果を表示するなど、失敗を ExecutionTask から読み取る仕組みを用意した場合に限って使う。