概要
WPF の ListBox は、大量データを表示するとき VirtualizingStackPanel による UI 仮想化が有効になる。
仮想化が有効だと、画面外にあるアイテムのコンテナ(ListBoxItem)は破棄され、必要になった時点で再生成される。
このとき、選択状態の管理をコンテナに依存していると、スクロール後に「以前選択した項目が SelectedItems に残っていない」ように見えることがある。
対策として広く知られているのは、各アイテムの ViewModel に IsSelected を持たせ、ItemContainerStyle で ListBoxItem.IsSelected を TwoWay バインドする方法である。
ただしこの構成だけでは不十分である。
実体化されていないコンテナにはバインドが存在しないため、Ctrl + A や Shift による範囲選択が画面外に及ぶと、その選択はデータ側に届かない。
さらに悪いことに、後からスクロールしてコンテナが実体化されると、データ側の false が UI へ書き戻され、いったん成立していた選択が失われる。
本記事では、この非対称性を実測で示したうえで、SelectionChanged を併用して両方向の同期を成立させる構成を示す。
前提・対象環境
- フレームワーク / 言語: .NET 10 / C# 14(コード例は .NET 6 / C# 10 以降でそのまま動作する)
- 対象コントロール: WPF
ListBox(System.Windows.Controls) - アーキテクチャ: MVVM(各アイテム ViewModel が
IsSelectedを公開する) - OS: Windows 11(WPF は Windows 専用)
- 検証環境: 表示スケール 100%、既定テーマ(Aero2)
以降の例では、UI 仮想化が有効な状態(ListBox の既定)で、1 万件規模のコレクションを ListBox にバインドすることを前提とする。
SelectionMode は複数選択を扱う Extended を用いる。
挙動は .NET 6 以降で変わらない。
本記事の数値は、この環境で実際にアプリケーションを起動し、SelectedItems.Count とデータ側の IsSelected が真である件数を数えて得たものである。
原因・背景
ListBox の UI 仮想化では、スクロールに応じてコンテナが作り直される。
選択状態を次のように扱っている場合、仮想化の影響を受けやすくなる。
ListBoxItemを直接参照して選択を管理している- Visual Tree からコンテナをたどって
SelectedItemsを構築している - 再生成されたコンテナに対して選択状態を復元していない
失われているのはデータそのものではなく、コンテナ依存の選択同期である。
VirtualizationMode="Recycling" ではコンテナが使い回されるため、再利用されたコンテナに前の選択状態が残る、あるいは復元されないといった不整合がさらに起きやすくなる。
IsSelected だけに状態がある場合で、スクロールでコンテナが作り直されると復元する手がかりが残らない。下段はデータ側に IsSelected を持たせ ItemContainerStyle で双方向にバインドした場合で、再生成されたコンテナはデータから状態を読み直す。実体化されるコンテナは件数に依存しない
仮想化が有効なとき、同時に存在する ListBoxItem は表示範囲に必要な数だけである。
高さ 600px の ListBox で計測すると、コレクションの件数を 100 件・10,000 件・100,000 件と変えても、実体化されるコンテナは 31 個で一定であった。
この計測結果は、後掲の「仮想化を壊さない」の図に示している。
ItemContainerStyle が適用されるのは、生成された ListBoxItem に対してだけである。
10,000 件をバインドした場合、コンテナを持つのはこの 31 件であり、残る 9,969 件には対応する ListBoxItem がそもそも存在しない。
コンテナが無ければ、そこに置かれるはずのバインドも存在しない。
件数を増やしても実体化されるコンテナは 31 個のままであるため、件数が多いほどコンテナを持たないアイテムの割合は大きくなる。
「選択状態がデータ側にあれば安全」という理解は、データからコンテナへの方向にしか当てはまらない。
コンテナからデータへ書き戻す方向は、実体化済みの 31 件でしか働かない。
解決策: 各アイテムに IsSelected を持たせる
複数選択を MVVM で扱う土台として、各アイテム ViewModel に IsSelected を持たせる。
選択状態がデータ側にあれば、コンテナが破棄・再生成されても値は保持される。
ViewModel の例
各行を表す ViewModel に、変更通知付きの IsSelected を実装する。
using System.ComponentModel;
using System.Runtime.CompilerServices;
public class RowItemViewModel : INotifyPropertyChanged
{
private bool _isSelected;
public int Id { get; }
public string Name { get; }
public bool IsSelected
{
get => _isSelected;
set
{
if (_isSelected == value) return;
_isSelected = value;
OnPropertyChanged();
}
}
public RowItemViewModel(int id, string name)
{
Id = id;
Name = name;
}
public event PropertyChangedEventHandler? PropertyChanged;
protected void OnPropertyChanged([CallerMemberName] string? propertyName = null)
=> PropertyChanged?.Invoke(this, new PropertyChangedEventArgs(propertyName));
}
IsSelected の変更通知は、ViewModel 側で選択状態を変更したときに、実体化済みの ListBoxItem へ反映するために必要となる。初期表示やコンテナ再生成の際はバインドが現在値を読み取るため通知は不要だが、双方向に同期させるうえで INotifyPropertyChanged を実装しておく。
画面全体の ViewModel の例
リスト全体を保持し、選択済みアイテムをデータ側から取得できるようにする。
using System.Collections.ObjectModel;
using System.Linq;
public class MainViewModel
{
public ObservableCollection<RowItemViewModel> Items { get; } = new();
public MainViewModel()
{
for (int i = 1; i <= 10000; i++)
{
Items.Add(new RowItemViewModel(i, $"Row {i}"));
}
}
public RowItemViewModel[] GetSelectedItems()
=> Items.Where(x => x.IsSelected).ToArray();
}
GetSelectedItems はコンテナではなくデータ(IsSelected)を走査するため、スクロール位置や仮想化の状態に関わらず、IsSelected に反映済みの選択を漏れなく取得できる。
XAML の例
ItemContainerStyle で ListBoxItem.IsSelected を各アイテムの IsSelected に TwoWay バインドする。
<ListBox x:Name="RowListBox"
ItemsSource="{Binding Items}"
SelectionMode="Extended"
ScrollViewer.CanContentScroll="True"
VirtualizingPanel.IsVirtualizing="True"
VirtualizingPanel.VirtualizationMode="Recycling">
<ListBox.ItemTemplate>
<DataTemplate>
<StackPanel Orientation="Horizontal">
<TextBlock Text="{Binding Id}" Width="80"/>
<TextBlock Text="{Binding Name}"/>
</StackPanel>
</DataTemplate>
</ListBox.ItemTemplate>
<ListBox.ItemContainerStyle>
<Style TargetType="ListBoxItem">
<Setter Property="IsSelected"
Value="{Binding IsSelected, Mode=TwoWay, UpdateSourceTrigger=PropertyChanged}" />
</Style>
</ListBox.ItemContainerStyle>
</ListBox>
コンテナが再生成されると、バインドが IsSelected の値を読み直して選択状態を復元する。
ここまでが一般に紹介される構成である。
ItemContainerStyle のバインドだけでは選択が失われる
上の構成に対して、Ctrl + A(SelectAll)で全件を選択し、そのままページ送りでスクロールしたときに何が起きるかを計測した。
比較のため、SelectionChanged でデータ側へ明示的に書き戻す構成と、両方を併用する構成も同時に測った。
ListBox に対して SelectAll() を実行し、続けて 10 ページ分スクロールしたときの実測値。ItemContainerStyle のバインドだけの構成では、スクロールによって選択が失われている。読み取れることは 3 点ある。
1. SelectAll() の直後、データ側には 31 件しか届いていない。
SelectedItems は 10,000 件を正しく保持している。
一方でデータ側の IsSelected が真になったのは、実体化済みのコンテナに対応する 31 件だけである。
バインドが存在しない 9,969 件には、選択が伝わらない。
2. スクロールすると、成立していた選択が壊れる。
10 ページ分スクロールした後、SelectedItems は 10,000 件から 9,845 件へ減っている。
新しく実体化されたコンテナが、データ側の IsSelected(まだ false)を読み取り、その値で自身の選択状態を上書きするためである。
ItemContainerStyle のバインドは選択を守るどころか、この経路では選択を消す方向に働く。
3. SelectionChanged を使うと両方が一致する。
選択の変化をイベントで受けてデータ側へ書き戻す構成では、SelectAll() の直後もスクロール後も 10,000 件で一致した。
SelectionChanged の e.AddedItems / e.RemovedItems は、コンテナが実体化されているかどうかに関係なく、変化した項目をすべて含むためである。
推奨する構成: バインドと SelectionChanged の併用
どちらか一方ではなく、両方を使う。
役割は次のように分かれる。
| 経路 | 担当 | 対象範囲 |
|---|---|---|
| UI での選択操作 → データ | SelectionChanged |
全件 |
| データ → UI(コンテナ実体化時の復元) | ItemContainerStyle のバインド |
実体化されたコンテナ |
SelectionChanged が全件をデータへ書き戻すため、後からコンテナが実体化されても、バインドは正しい値(true)を読み取る。
上の表で「both」の行が両方 10,000 件で一致しているのはこのためである。
コードビハインドに次のハンドラーを置く。
private void RowListBox_SelectionChanged(object sender, SelectionChangedEventArgs e)
{
// 実体化されていないアイテムにもバインドは無いため、選択の変化はここで
// データ側へ反映する。e.AddedItems / e.RemovedItems はコンテナの
// 実体化状態に関わらず、変化した項目をすべて含む。
foreach (RowItemViewModel item in e.AddedItems)
{
item.IsSelected = true;
}
foreach (RowItemViewModel item in e.RemovedItems)
{
item.IsSelected = false;
}
}
SelectionChanged はユーザー操作だけで発生するイベントではない。
SelectAll の呼び出し、SelectedItem への代入、そして本節の構成ではコンテナが実体化されてバインドが選択状態を復元したときにも発生する。
そのため上のハンドラーは、復元のたびに「すでに true の項目へ true を代入する」呼び出しを受ける。
前掲の RowItemViewModel のようにセッターで同値を弾いておくことで、この経路が余計な変更通知を発生させずに済む。
MVVM を保ちたい場合は、同じ処理を添付ビヘイビアか、Microsoft.Xaml.Behaviors.Wpf パッケージの EventTrigger から呼び出す。
System.Windows.Interactivity(Blend SDK)は後継の Microsoft.Xaml.Behaviors に置き換えられており、新規に使うものではない。
<ListBox ItemsSource="{Binding Items}"
SelectionMode="Extended"
xmlns:b="http://schemas.microsoft.com/xaml/behaviors">
<b:Interaction.Triggers>
<b:EventTrigger EventName="SelectionChanged">
<b:InvokeCommandAction Command="{Binding SelectionChangedCommand}"
PassEventArgsToCommand="True" />
</b:EventTrigger>
</b:Interaction.Triggers>
<!-- ItemTemplate と ItemContainerStyle は前掲のまま -->
</ListBox>
PassEventArgsToCommand="True" により、コマンドは SelectionChangedEventArgs を受け取る。
e.AddedItems / e.RemovedItems の扱いはコードビハインド版と同じである。
XAML 側でイベントを結び付ける。
<ListBox x:Name="RowListBox"
ItemsSource="{Binding Items}"
SelectionMode="Extended"
SelectionChanged="RowListBox_SelectionChanged"
VirtualizingPanel.IsVirtualizing="True"
VirtualizingPanel.VirtualizationMode="Recycling">
<!-- ItemTemplate と ItemContainerStyle は前掲のまま -->
</ListBox>
データ側から選択を変更する場合
ViewModel で IsSelected を書き換えた場合、その効果は実体化済みのコンテナにしか即座には現れない。
5,000 件を true にしても、SelectedItems に載るのは表示範囲の分だけである。
ただしこれは選択が失われているわけではない。
ScrollIntoView などでその行が実体化されると、バインドがデータから true を読み取り、SelectedItems に加わる。
実測でも、画面外の 1 件をデータ側で選択した直後は SelectedItems が 0 件であったが、その行までスクロールすると 1 件になった。
したがって選択集合をアプリケーションのロジックから参照するときは、SelectedItems ではなくデータ側の IsSelected を数える。
前掲の GetSelectedItems がその役割を果たす。
Shift 範囲選択への対応
本手法は SelectionMode="Extended" を維持するため、Shift による範囲選択や Ctrl による追加選択は WPF の標準動作に任せられる。
Shift による範囲選択が行われると、ListBox は選択された範囲の項目を SelectedItems に加え、SelectionChanged の e.AddedItems に載せる。
範囲が画面外に及んでも e.AddedItems には含まれるため、前節の SelectionChanged ハンドラーがあればデータ側の IsSelected も全件更新される。
ハンドラーが無い場合は、実体化済みのコンテナ分しか更新されない点が Ctrl + A と同じである。
仮想化を壊さない
ここまでの前提は、仮想化が実際に働いていることである。
ScrollViewer.CanContentScroll を False にすると、スクロール単位がアイテム単位からピクセル単位に変わり、仮想化が無効になる。
その影響を計測した結果が次の表である。
ScrollViewer.CanContentScroll を変えて計測した値。5 回試行の最小値を採っている。True の 3 行は、件数を 1,000 倍にしてもコンテナ数・visual 数・レイアウト時間がいずれも変わらないことを示す。False にすると全件分のコンテナが構築され、レイアウト時間は 2 桁大きくなる。所要時間は実行環境に依存するため、絶対値ではなく比率として読む。True のままであれば、件数を 100 件から 100,000 件へ 1,000 倍にしても、実体化される ListBoxItem は 31 個、visual の総数は 152 個で変わらない。
仮想化の効果は、まさにこの「コストが件数に依存しない」という点にある。
False にすると、10,000 件で実体化される ListBoxItem は 31 個から 10,000 個へ、visual の総数は 152 個から 40,028 個へ増える。
レイアウト時間の差は 2 桁に達する。
滑らかなピクセル単位スクロールを求めて CanContentScroll="False" を設定すると、仮想化が失われて大量件数では実用にならない。
VirtualizingPanel.ScrollUnit="Pixel" を使えば、仮想化を保ったままピクセル単位のスクロールにできる。
注意点
1. SelectedItems を直接 TwoWay バインドしない
SelectedItems はコレクションだが、WPF の標準コントロールではそのまま素直に TwoWay バインドできない(依存関係プロパティではなく読み取り専用のコレクションであるため)。
複数選択を MVVM で扱う場合は、IsSelected パターンと SelectionChanged の併用を採用するのが実装・保守の両面で現実的である。
2. 選択集合はデータ側から求める
ListBox.SelectedItems は、UI 操作で行われた選択については、実体化されていないアイテムも含めて反映する。
一方、ViewModel 側で IsSelected を変更した分は、そのアイテムのコンテナが実体化されるまで SelectedItems に現れない。
両者は常には一致しないため、アプリケーションのロジックが参照する選択集合はデータ側(IsSelected)に一本化する。
3. コンテナ依存のロジックを避ける
ItemContainerGenerator.ContainerFromIndex や Visual Tree の走査に依存すると、仮想化とコンテナの再利用の影響を受けやすくなる。
コンテナを列挙して選択を集計するコードは、画面外のアイテムを取りこぼす。
同じ制約は階層構造を扱う TreeView にも当てはまる(WPF TreeView で任意のノードをコードから選択・展開する方法と SelectedItem が読み取り専用である理由)。
4. ItemContainerStyle のバインドだけで済ませない
本記事で最も注意を要する点である。
ItemContainerStyle のバインドは、実体化されたコンテナにしか存在しない。
SelectionChanged を併用しないまま Ctrl + A や広範囲の Shift 選択を許すと、スクロールによって選択が減る。
5. アイテム数が少なければ標準の SelectedItems で足りる
すべてのコンテナが実体化される規模(数十件程度)であれば、これらの非対称性は表面化しない。
ListBox.SelectedItems をそのまま読む実装で問題ない。
本記事の構成が必要になるのは、仮想化が実際に働く件数を扱う場合である。
6. ItemTemplate の中身も描画コストに効く
仮想化が有効でも、実体化されたコンテナ 31 個分のテンプレートは毎回構築される。
ItemTemplate が重いと、スクロール時のコンテナ再生成で体感速度に影響する。
テンプレート内のコントロール選択については「WPF で Label を大量配置すると遅い原因と TextBlock への置き換え指針」で扱う。
まとめ
WPF の ListBox で仮想化を有効にした場合、選択状態をコンテナに依存して管理していると、スクロール後に SelectedItems が消えたように見えることがある。
対処の要点は、選択状態をデータ側に持たせることと、その同期を両方向で成立させることである。
- 各アイテム ViewModel に
IsSelectedを持たせる ListBoxItem.IsSelectedをIsSelectedに TwoWay バインドする(データ → UI)SelectionChangedのe.AddedItems/e.RemovedItemsをデータ側へ書き戻す(UI → データ)- アプリケーションのロジックは
SelectedItemsではなくデータ側のIsSelectedを参照する SelectionMode="Extended"のまま標準の Shift / Ctrl 選択を使う- 仮想化を維持するため
CanContentScroll="True"を保ち、ピクセル単位のスクロールが必要ならVirtualizingPanel.ScrollUnit="Pixel"を使う
バインドだけ、あるいは SelectionChanged だけでは片方向しか成立しない。
数千〜数万件規模のリストで複数選択を扱う場合は、両方を組み合わせる。
選択が少数かつ仮想化が不要な小さいリストであれば、標準の SelectedItems をそのまま使う方が簡潔である。